新・酒蔵探訪 42 | 2015年7月
合資会社廣木酒造本店
河沼郡会津坂下町字中二番甲3574
Tel.0242-83-2104
▲酒蔵外観
前回、会津坂下町の廣木酒造を訪ねたのは2011年1月。東日本大震災の2ヵ月程前のことだった。あれから4年あまり。蔵の入り口には「飛露喜」の在庫がないことを示す張り紙が貼られ、相変わらず、この蔵の酒の人気の高さが窺えた。
「これから10年、20年が過ぎた時に、東日本震災は福島の酒にとって大きな契機になったと振り返ることができれば」と、蔵の9代目となる廣木健司社長は言う。「蔵に商品や建物などの物的被害はありましたが、お陰様で人的な被害はありませんでした」と廣木社長。原発事故による風評被害もなく、3年間は全商品、全ロットについて放射性物質の検査を行い証明書をつけたが、実際、お客様から証明書を求められたことは一度もなかったという。
もっと大きな被害を被った蔵もある中で、自分は支援する立場であるべきだと考えた廣木社長。「当時から、福島の酒は全国でもトップレベルでしたが、震災、原発事故以降も高いレベルを保ち、もっと高みを目指す努力をすることこそ、福島の酒を支援し、風評の払拭にもつながるのだと思いました」。風評を乗り越え、それを努力のきっかけにする。その結果、この震災、原発事故を福島の酒の飛躍につなげたい。震災後は常にそんな思いを抱いてきたという。
▲廣木健司社長
「実際、震災以降は地方の酒の注目度が高まっています。地方の小さな蔵でも、きちんとした酒づくりをしている蔵の酒が人気を得ています」。それは、福島の酒蔵にとっても追い風になっているという。確かに県内の蔵でも若手の蔵元や杜氏の活躍が目立ってきている。かつて、20代で蔵の危機を建て直し、一躍全国区の人気酒を誕生させた廣木社長。「私の酒づくりが、頑張れば結果を出せるというサンプルとなったのであれば、それは嬉しいことです」。今後はさらに、インフラを含め小さな酒蔵でも永続的に蔵を継承していける、そんな成功例をも体現できればという。
廣木社長が目指す酒は「人生に寄り添う酒」。たとえばそれは、結婚を決めた男女が両親に挨拶に行く時に持って行く酒。特別な日に選ぶブランド価値のある酒で、もちろん飲んでうまい酒で思い出に残る。そんな人生の節目に選ばれる酒でありたいという。「さらに、そうして結婚した夫婦が、次は子どもが成人したときに一緒に飲む。世代を渡って飲んでいただけるようになればいいですね」。
(左から)
飛露喜 特別純米無ろ過生原酒
飛露喜 特別純米
飛露喜 純米大吟醸
泉 川 純米吟醸
泉 川 吟醸
全国で高い評価を受ける「飛露喜」と、創業当時から続く銘柄「泉川」。今やどちらも品薄で、なかなか手に入りにくい。そんな中でも常に理想の味を目指し、努力と研究を重ねる。「技術的革新や冷蔵設備の普及、そして酵母の開発や試験場の支援もあり、今や、日本酒の酒質は非常に高くなっています。もちろん今後も品質は追い続けながら、酒蔵としての意識を高めることが大切だと思っています」。蔵が個性とプライドを持ち、環境整備を含め魅力的になることも必要だという。
震災後には、「飛露喜純米大吟醸」の4合瓶の通年出荷も開始した。震災前からぶれることのない酒づくりへの思いの中で、廣木酒造の進化は続く。将来的には、ワインのシャトーやドメーヌのように農業の分野に進出し、自家所有田で酒米を作る。そんな夢もあるという。今後もぜひ、福島の酒を牽引する存在であってほしい。
※「飛露喜」「泉川」ともに出荷数に限りがあり、販売店での取扱も限定されています。ご了承ください。
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