Loading...

新・酒蔵探訪 4 2012年2月

国権酒造株式会社


南会津郡南会津町田島字上町甲4037
Tel.0241-62-0036
http://www.kokken.co.jp/

▲細井信浩専務

 南会津郡田島町。ここは、かつて江戸と会津を結ぶ街道の宿場として栄えた場所。毎年7月に行われる田島祇園祭は800年以上の歴史を持ち、国の重要無形文化財にも指定されている。国権酒造は明治10年、そんな田島の街中に創業した。昭和30年代の集約製造を経て、いち早く品質の高い酒造りをと特定名称酒に特化した製造に踏み切り、間もなく全国の鑑評会で高い評価を受けるようになった国権酒造。今では全国にその名を知られる蔵となっている。蔵は現在、4代目の細井冷一社長、5代目の信浩専務が取り仕切る。

 昨年の東日本大震災では、昭和9年に建てられた蔵の壁が落ちるなどの被害があった。一時製造ラインが止まり、品切れの商品が出たこともあったが、蔵の復旧とともに回復した。風評についても今のところほとんど影響を受けていないそうで一安心だが、県内の他の酒蔵同様落ち着かない日々は続く。

 国権酒造では一時期、津波で流された浜通りの蔵に酒造りの場を提供した。「すべてを流され、私だったらとても再び酒造りをしようと立ち上がることはできなかったと思います。蔵元の姿勢に打たれましたね。ご家族で最初の酒にラベルを貼っていたのですが、感動的でした。のれんを守ることの意味、そしてのれんに受け継がれたご家族の思いを改めて感じました」と、細井社長は振り返る。

▲酒蔵外観

 社長はしかし、その酒蔵、そして自らも含めた県内の酒蔵すべてにとって、この辛い時期を逆に好機と捉えてほしいと言う。「県内の蔵の中には、操業できなくなったところや大きな被害を受けたところもあります。福島の酒にとってはやはり踏ん張りどころだと思います。現在はいわゆる〝復興応援需要〟で福島の酒を飲んでくださる方がたくさんいらっしゃる。ここで福島の酒は美味いということを知ってもらい、将来につなげてほしいと思います」。もちろん、原料米の安全性などについては今後もきちんと検査、告知していかなければならない。その上で『良い酒』を作ることが大切なのだ。

 社長は後継者である信浩氏に、以前からずっと2つのことを言ってきた。「質を守る」ことと、「時代に合った営業」だ。自身、迷いの中から「質の高い酒造り」に踏み切った40年前はひたすら努力の日々だったという。コツコツ積み重ねた年月の中で信頼を回復した。その経験から、地元とのつながりも大切にしている。

 信浩氏は、蔵の後継者として戻ってきた当時を「広島の醸造研究所から戻って10年以上が経過しました。当時は酒造りのイロハ程度しか解らず、何がおいしいお酒なのか解りませんでした。高品質のお酒が『良い酒』と思っていました」と、振り返る。しかし、酒の会等を通じて今は、『場』をつくる酒が『良い酒』ではないのかと考えるようになったという。「一人静かに飲む酒。気の置けない仲間と楽しく飲む酒。二人でしっぽりと飲む酒。会話に弾みをつける酒。などなど。その場をつくってくれる酒を醸したいと思っております。色々な場面で酒を飲むときに、こういうときは『国権』だな、と言っていただけるような銘柄になりたいなと思っております。」。

▲国権大吟醸/夢の香り/山廃にごり

 震災後の造りについて、信浩氏は、今期の酒造りから本当の意味での正念場だという。「酒造りが普段通りにできるという有り難さと、今まで通りに買っていただける有り難さを改めて感じさせられた1年でもありました」。

 国権酒造では、一昨年の秋からレッテルを大幅に変更した。地震の影響もありまだ全部の変更には至っていないが、いずれは完了する。今まで日本酒に全く関心がなかった人がレッテルに惹かれ、いわゆる『ジャケ買い』をしてくれたら、それだけで意義があるのでは、信浩氏。「どうぞ、温かい目で見てやってください。」

 質の高い酒造りから、さらに一歩前へ。シチュエーションを演出する酒へ。国権酒造の前進は続く。

※掲載されている情報は取材日時点での情報であり、掲載情報と現在の情報が異なる場合がございます。予めご了承下さい。