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新・酒蔵探訪 5 2012年3月

合名会社四家酒造店


いわき市内郷高坂町中平14
Tel.0246-26-3504
https://shikesyuzouten-matabey.shopinfo.jp/

▲四家久央専務

 前回いわき市内郷にある四家酒造店にお邪魔したのは2005年の7月。7年ぶりに訪ねた酒蔵は、以前と変わらぬ堂々とした佇まいを見せてくれた。昨年の東日本大震災でも、大きな被害はなかったという。「幸い酒もタンクから多少こぼれた位で、地震の被害そのものはほとんどありませんでした」と、話してくださったのは専務の四家久央氏。今から170年ほど前、創業者である四家又兵衛が酒好きが高じて酒造りを始めたというその蔵で、今も地元の、そして全国の酒好きのための酒を作り続けている。

 「おそらく、7年前と何も変わっていませんよ」と笑う専務だが、東日本大震災、そしてその後の放射能問題や風評被害を通して、改めてこの場所で生きていく、そして酒を作り続けていくのだということを意識したと言う。東京のイベントなどに参加したり、遠方から復興支援のために酒を購入したいという申し出を受けたり、たくさんの支援を得たそうで、その中で、「ここで生きていくしかない。そう感じました」と、覚悟のようなものを感じたという。

▲仕込蔵内部

 四家酒造店は、何より地元の人に愛される酒造りにこだわり続けてきた。多彩なニーズに応えるべく、甘口から辛口まで特徴ある酒が揃う。その丁寧に醸された酒は各種鑑評会では 毎年のように好成績を収めており、昨年平成23年の県の秋季鑑評会でも金賞を受賞。さらに、映画の撮影をきっかけに「又兵衛」のファンとなったという俳優・三国連太郎さんなど、広く全国の酒好きに愛される蔵として、文字通りいわきを、そして福島県を代表する酒となっている。

 初代の酒への粋な思いを汲みつけられた「又兵衛」の名は、30年ほど前に登場。今ではすっかり定着している。「純米酒 いわき郷」は、米の味を最大限に生かしたふくらみのある穏やかな口当たりの酒。冷から燗まで、そしてさまざまな料理に合わせやすい腰のある純米酒だ。また、アルコール度数19度と高めながら、旨みとキレのバランスが良く、ロックなど飲み方も工夫次第で楽しめるのが「原酒 又兵衛」。華やかな香りながら、決して派手すぎず落ち着きのある上品な味の「又兵衛 吟醸」もおすすめだ。

 蔵の建物は、明治時代のもの。風格を感じさせる太い梁や柱に、なるほど気骨ある酒がここで生まれるのだという印象を受ける。そして、実に静かに、整然と酒造りが行われている。会津地方などに比べ、温暖な気候のいわきは、やはり温度管理に気を使うという。この冬はいわきも寒い日が多かったそうで、温度管理という点では例年より楽だったとか。

▲純米酒いわき郷/原酒又兵衛/又兵衛吟醸

 いわきでは、沿岸部などで震災の被害が大きかったところも多く、被害が少なかった四家酒造店も決して喜ぶことはできない。地元に愛されてきた蔵として、これから地域のために果たすべき役割も多く、期待も大きいに違いない。しかし、蔵がやるべきことは一つだ。今までどおり、そして今まで以上にしっかりと地に足をつけた酒造りを続けることだ。その、ぶれない酒造りこそがいわきの復興に、福島の元気につながる。そんな思いを抱きながら、穏やかな陽気のいわきを後にした。

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