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新・酒蔵探訪 6 2012年4月

笹の川酒造株式会社


郡山市笹川1丁目178
Tel.024-945-0261
https://www.sasanokawa.co.jp/

▲山口哲司社長

 郡山市の笹の川酒造の創業は明和2(1765)年。「実は創業前、酒造免許を取得したのは1723年。昨年でちょうど300年だったのです」と、山口哲司社長。その節目を祝うべき年、酒蔵は大震災に見舞われた。50余年前に建てられた蔵は一部の壁が落ち、貯酒タンクが傾き、配管や機械も壊れた。「すぐに直そうと思っても、当時は見積もりを取るのにもかなりの時間がかかるという状態で、全然先の見えない状態が続きました」。そんな中でも社員が総出で瓦礫の片付けを行ったりして、瓶詰めなど動かせるところから再稼動を始めた。しかし、蔵は再稼動しても、得意先である酒販店などが被害を受けていたために、しばらくは開店休業状態が続いたという。

 震災から半月余りが過ぎた3月末には、避難所で甘酒の提供を行った。純米吟醸の酒粕を使った甘酒は、まだまだ寒さが残る季節に避難者の体と心を温めた。まさに着の身着のままで避難してきた方たちに接し、改めてこの震災の被害の深刻さに気づかされたと社長は言う。

▲瓶詰工場内部

 また、この震災復興については、義援金付きの商品や、福島市在住のシンガーソングライターave(エイヴ)さんの東日本大震災応援ソング「福の歌」とのコラボレーション商品「笹の川純米 福の歌」を発売するなど、積極的に取り組んでいる。

 「震災後、実にいろいろなことを考えさせられました」と、社長は1年を振り返る。「特に原発事故に伴う放射線の問題については、周囲でもさまざまな行動や発言があり、中には不安を煽られるものも多く、自分の勉強不足もあるのですが憤りを覚えました。実際、避難を勧められたり、なぜ避難しないのかと訊かれたこともあったのですが、逆にここで酒を造っていることの意味を実感しました」。これまでの長い年月、この場所で酒を造り、多くの繋がりを得てきたことを改めて思い、これからも地酒として生きていくことを強く意識したという。「この場所を離れてしまっては、『地酒 笹の川』ではなくなってしまいますから」。

 清酒、焼酎、ウイスキー、リキュールなど、幅広い商品を製造している笹の川だが、やはり、まずは「上撰 笹の川」を紹介したい。すっきりした甘味と旨味、酸味が調和したバランスの良い酒で、食事にも合わせやすい。また、「笹の川 純米酒」は、引き締まった旨味の引き立つ酒。常務である山口敏子さんが醸す〝敏子の酒〟「桃華」も定番となってきた。焼酎「吟粒」は、清酒を蒸留して造られ、清酒の良い香りとまろやかな味が特徴だ。笹の川には地域オリジナル酒も各種あるが、その一つ、芋焼酎「郡山太郎衛門」は郡山農業青年会議所の協力で開発した。

(左から)
特選純米酒
純米酒
純米吟醸 桃華
蔵元焼酎 吟粒
本格芋焼酎 郡山太郎右衛門

 蔵では放射線の影響や風評被害も少なくなかった。県内外の農作物などを原料とした焼酎も、その原料自体の出荷停止などによって生産が中止されたり、梅酒や柿の渋抜きに使われる焼酎の売上げが激減した。首都圏などで行われた復興支援イベント等での売上げはあっても、やはり県内の得意先の被災や輸出のストップなどの影響は大きい。「放射線については、原料の調達先の検討、そして原料や製品の徹底した検査で対応しています。また、新たな得意先の開拓にも取り組んでいます」と山口社長。未だに続く震災と原発事故の影響と戦いながら、蔵は地元郡山の復興とともに、日々前進を続けている。

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