新・酒蔵探訪 7 2012年5月
松崎酒造店
岩瀬郡天栄村大字下松本字要谷47-1
Tel.0248-82-2022
http://matsuzakisyuzo.com/
▲松崎佑行さん
豊かな自然を有する岩瀬郡天栄村。地元を流れる釈迦堂川はかつて「廣戸川」と呼ばれていたという。その川の名を冠した酒「廣戸川」の醸造元、松崎酒造店は昨年秋、跡継ぎである松崎祐行さんが「杜氏」として新たな一歩を踏み出した。
松崎酒造店はもともと恵まれた自然を生かし、南部杜氏による昔ながらの酒づくりを行ってきた。昨年の東日本大震災でも、蔵など建物に損害はあったものの商品などは概ね無事だった。
周囲の温かな応援もあり風評などの心配も乗り越えようとした矢先、長年松崎家とともに蔵を守ってきた杜氏が病に倒れたのだ。
そこで、4年前に蔵に戻り造りの勉強をしていた祐行さんが杜氏の重責を担うこととなった。「正直不安でした。でも、いずれは自分で酒を造っていきたいと思っていたので、挑戦したいという気持ちも湧いてきました」と、祐行さん。
▲蔵外観
福島県の清酒アカデミーで3年間酒造りを学び、知識や技術を得るとともにたくさんの人間関係を築くことができたそうで、それが今回の杜氏という大役に就くにあたって役に立ったという。また、福島県ハイテクプラザが実施している『ものづくり企業の復興支援』制度も活用し、造りの要所要所で指導を受けることができた。
さらに父、淳一さんをはじめ従業員も一丸となって祐行さんを助け、酒造りに取り組んだという。飲む人の顔を思い浮かべながら作業をしたという祐行さんが、一番苦労したのは麹造り。そして、最初に搾った酒は、緊張して暫くの間口にすることができなかったという。「猪口を両手に握り締めたまま、なぜかしばらく動けませんでした」。
祐行さんが初めて仕込んだ今年の酒は、本人や周囲の不安を跳ね飛ばすかのように、上々の評判だという。そして、この3月には「平成24年福島県春季鑑評会」吟醸の部、純米酒の部で金賞を受賞した。
『廣戸川』は、今までの造りの流れを汲みつつ丁寧な仕込みを行い、すっきりとした甘味を実現した。その名の通り酒袋で一滴一滴雫を落とす『しずく酒無濾過稲華かたり』、も華やかさとキレを併せ持ち、米の奥ゆかしい味わいが楽しめる。また、福島県が開発した酒米「夢の香」を用いた『廣戸川 大吟醸』も、香り高い大吟醸ならではの酒となっている。
▲廣戸川 雫酒無濾過/稲華かたり/大吟醸
「廣戸川」は以前から、米の持ち味を生かした上質な酒造りを目指してきた蔵である。その基本は今も変わらない。「原料米自体の味が、酒にすることによってより膨らむような、そんな酒造りをしたい」と、祐行さんは言う。「今はまだこれが自分の酒だと言いきることができませんが、これからもより技術を身につけ、自分らしさを出していければと思っています」。
以前、淳一さんは、「地元を大切に、より多くの人が日本酒を飲む機会を増やしたい」と話してくれた。そのために、より質の高い酒を造り、地元の人や観光客などのさまざまなニーズに応えていきたいと。その松崎酒造店の酒造りは今、祐行さんという頼もしい翼を得て、新たな一歩を踏み出した。明治25年創業の初代から続く酒造りの伝統を継承し、発展させる一歩を。
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