新・酒蔵探訪 8 2012年6月
開当男山酒造
南会津郡南会津町中荒井久宝居785
Tel.0241-62-0023
http://otokoyama.jp/
▲渡部謙一蔵元
享保元年、天領南会津に創業した開当男山酒造。その歴史は間もなく300年を数える。蔵に向かう道中、車窓から臨むと新緑とともに遅咲きの山桜が山肌を彩り、会津にもゆっくりと春が訪れたことを感じさせてくれた。
迎えてくれたのは、白壁の蔵と趣ある庭。江戸末期、そして昭和30年代に建てられた蔵や母屋に地震による被害はなかった。「お蔭様で商品にも被害はなく、震災後もすぐに通常通りの仕事を再開できました」と話すのは14代目蔵元の渡部謙一氏。震災当日、蔵元ご自身は福島市にいたため、帰宅に時間がかかったり、なかなか蔵に連絡がつかないなど苦労されたそうだが、蔵に帰ると被害もなく、周囲も皆ほとんど普通の様子だったため逆に驚いたとか。「震災ではたくさんの方にご心配いただき、また支援もいただいて、本当に感謝しています」と、蔵元。観光客の減少による影響はあるものの、逆に昨年5月、6月頃からは復興支援ということでの需要が増えたそうで、「これもとてもありがたいことです」と、震災後の日々を振り返る。
▲蔵外観
開当男山酒造の酒は、一口で言えば「とてもきれいな酒」だ。雪国の寒冷な気候と、その雪がもたらす水、そして平均50%という精米歩合や蔵人のきめ細かな造りが、ここならではの酒を造り上げる。雪が多く年間の平均気温は10度以下、最低気温がマイナス20度になることもあるという。そんな寒冷地では、他の地で頭を悩ます温度管理はお手の物。むしろ必要な時には温める工夫をしなければならないこともあったそうだ。現在は冷蔵施設も利用して、さらに繊細な温度管理を行っている。また、豊かな自然によって生まれる地下水は、酒に清冽な味わいを与える。
「私は、酒は自己主張が強すぎてはいけないと思っています」。食事はもちろん楽しい時、悲しい時などさまざまなコミュニケーションにおいても名脇役であり、その場を演出する大切なツールだと、蔵元は言う。自己主張しすぎることなく、けれど存在感がある。そんな酒こそが、開当男山の酒なのだ。
そして、季節限定品や企画品など、多彩なアイテムがあるのもこの蔵の特長と言える。「お客様の選ぶ幅を増やし好みの酒を選んでいただくとともに、酒と出合うきっかけを作りたい」と、商品開発に積極的に取り組んでいる。全国新酒鑑評会では近年、毎年のように金賞を受賞しており、蔵元の酒造りがぶれることなく着実に前進していることを窺わせる。
(左から)
特別純米酒「夢の香」
純米酒
純米吟醸
純米大吟醸「久宝居」
黒を基調としたラベルが力強い印象の純米酒、福島県産酒造米「夢の香」を100%使用した特別純米酒「開当男山 夢の香」は、いずれも米の旨みが冴える。穏やかな香りと飲むほどに美味しさを増す純米吟醸。大吟醸は、上品な香りとやわらかな味わい、そしてさらりとした喉越しの三拍子が揃う。清酒の理想を求めて杜氏と蔵人がその技術のすべてを注いだ日本酒の最高峰とも言える純米大吟醸「久宝居(くぼい)」は、まさに芸術の域。他に本醸造酒やにごり酒、古酒、焼酎など、いずれも蔵元自慢の逸品が揃う。
酒造りは地味な作業の繰り返しである。しかし、手を抜くことなく、その作業を積み重ねた先に、酒を飲む人々の喜びがある。「これからも、ぶれることなく酒造りに取り組んでいきたい」。酒造業を起こした渡部開当(はるまさ)氏の名をとった銘は、これからも会津を代表する酒の一つとして広く、そして永く親しまれるに違いない。
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