Loading...

新・酒蔵探訪 9 2012年7月

花春酒造株式会社


会津若松市神指町大字中四合字小見前24-1
Tel.0242-22-0022
https://hanaharu.co.jp/

▲宮森泰介社長

花春酒造が現在の社屋で新しいスタートを切ったのは、2005年8月のことだった。造りに支障がでないように、その10年程前から徐々に設備を整えてきたそうで、実は第2工場として建設中の1995年、阪神淡路大震災が起きた。「灘の蔵元の被害状況などから、設備の耐震性や水の確保の重要性などを実感しました」。そう話すのは宮森泰介社長。新工場については、発注していた機械の製造工場が被災して製造不能となり、発注先を止むなく変更し、建物の耐震性を見直すなど、阪神淡路大震災の教訓を十分に考慮したという。また、倉庫の荷積みの方法や安全確保なども徹底して行ってきた。そして、昨年3月11日の東日本大震災、花春酒造には大きな被害はなかった。

「ただ、震災後は運送がストップするなど、通常の業務はできませんでした」。何かできることはないだろうかと考えた社長は、次々と行動を起こす。「お互い様だと思うんです。だから、自分にできることをやろうと思いました」。給水車を出して県内各地で給水活動を行ったり、酒造組合でまとまって復興支援対応に当たったり。双葉町の警戒区域の酒蔵の酒造りをバックアップしたのも『お互い様』の気持ちからだった。

▲新工場全景

昨年5月には「I love you I need you ふくしま」を歌った『猪苗代湖ズ』のメンバーであるクリエイティブディレクター、箭内道彦氏がデザインした『猪苗代湖ズ《限定》純米吟醸酒』を発売。この酒は1本につき380円を義援金として寄付するという商品で、好評により現在も追加販売中だ。「1年以上経った今でも、まだまだ復興はこれから。福島県の蔵としてやっていかなければならないと思っています」。残念だが、県内の復興はまだまだ長いスパンで見ていかなければならないと社長は言う。

そんな熱い心を持つ花春酒造は、酒造りにおいても人と人の心を繋ぐ役に立ちたいと考える。享保3(1718)年の創業以来300年の歴史を持つこの蔵は、会津ならではの自然の恵みに伝え継がれてきた技を加え、「良い酒」を造る。その酒が、コミュニケーションツールとして人の心を結ぶことこそ造り手の喜びだ。

「商品企画を通して、酒に目を向けてもらう、そんな仕掛けをしていきたいと思っています」。清酒、焼酎と多彩な商品が揃うのは、そんな思いによる。「日本酒のように技を磨き極める、そんな“深化”するものもあれば、リキュール類のようにあらゆる楽しみを広げる、そんなアイテムも造っていきたい。いろいろな〝顔〟を見せていければと思っています」。

原料にこだわり、米は自家精米で用いる。低温醸造や低温貯蔵、充填、出荷まで酒造りのすべての工程、過程に気を配り、より品質の高い酒を飲み手に届ける。その丁寧な酒造りがあってこそ、〝深化〟と〝楽しさ〟の両立が可能なのではないか。

(左から)
純米大吟醸酒
荒城の月 山廃特別純米酒
会津印
猪苗代湖ズ 純米吟醸酒

 「会津印」として知られる、甘辛酸渋苦の五味が調和した普通酒。不朽の名曲「荒城の月」をモチーフに、明治時代より続く山廃で仕込んだ「荒城の月 山廃特別純米酒」や、県の酒造好適米「夢の香」を使った「純米大吟醸」は、その個性豊かな風味で地域産品ブランド認定を受けるなど評価も高い。

 「花春」という名は漢詩「花開酒国春」から生まれたという。戊辰戦争の落城で途方にくれる会津に、花のような明るさと春のような和やかさを取り戻したいという願いが託されている。いつの日もやはり、酒は人々を元気にしてくれるものだ。

※掲載されている情報は取材日時点での情報であり、掲載情報と現在の情報が異なる場合がございます。予めご了承下さい。