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新・酒蔵探訪 特集 | 2015年8月

インタビュー

蔵の雰囲気に惹かれて酒造りの世界へ
ほっと笑顔になる酒を目指す


花春酒造株式会社 杜氏 |
柏木 純子さん

花春酒造株式会社
会津若松市神指町大字中四合字小見前24-1
Tel.0242-22-0022
https://hanaharu.co.jp/

▲柏木純子さん

 かつて、酒造りは男の世界といわれ、神聖な酒蔵に女は入れないとされてきた。しかし今や、女性の杜氏や蔵元も珍しくない時代。女性が造る名酒も次々と登場している。今回ご紹介するのはそんな女性杜氏の1人、花春酒造の柏木純子さん。杜氏となって今年で9年目を迎える。その酒は、さまざまな賞を受賞するなど高い評価を得ている。柏木さんが酒造りの世界に飛び込んだ経緯や、これからの目標などをお聞きした。

 「まさか自分が酒蔵の杜氏になるなんて、思ってもいませんでした」と柏木さん。「就職するまで日本酒はほとんど飲めませんでした」。大学卒業後、花春酒造に入社した柏木さんは、できあがった酒の度数や日本酒度などを測る分析の仕事を担当していた。そのため、毎朝、分析する「もろみ」などを蔵に取りに行くのが日課で、この日課こそが柏木さんの運命を変えた。「蔵にはピンと張り詰めた空気が流れ、杜氏をはじめ蔵人が皆真剣に作業をしています。でも、それが一旦作業から離れると緊張がほどけ、和やかな雰囲気になる。そんな蔵の雰囲気に惹かれて、私も造りに加わりたいと思いました」。

 そこで、柏木さんは会社に願い出るが、もちろん簡単に聞き入れられるわけはなかった。「当時、酒造りの世界は大きく変わろうとしていました」と、宮森泰介社長は振り返る。「コンピュータ化や自動化が普及し始めた時代でした。また、杜氏をはじめとする蔵人の高齢化やなり手不足も問題となり、業界全体がその対応を余儀なくされていたといえます」。宮森社長も福島県酒造組合の技術委員として、技術の蓄積や継承に取り組み、現在の福島県ハイテクプラザなどに働きかけ「福島県清酒アカデミー校」や「高品質清酒研究会」の設立にも尽力してきた。「我が社も工場の移転など大きな転換期を迎えており、柏木が酒造りをしたいと言ってきたのはちょうどその頃でした」。

 花春酒造の杜氏はかつて越後杜氏が引退した後、秋田の山内杜氏が務めていた。その杜氏も高齢で、後継者についても考えなければならなかった。「調べてみると、当時、全国では次第に酒造りに女性が加わるようになっていて、北陸には蔵人の半数が女性だという蔵もありました。また、自動化などによって昔より力仕事も減っていることもあり、これなら女性でもできると決断しました」と、宮森社長。柏木さんが杜氏見習いとして蔵に入ることが決まった。

 「女性だということを意識するな」。蔵に入るに当たって、柏木さんは蔵人達からその一つだけを言われたという。もちろんそれは、柏木さんの望むところだった。他の蔵人と同様に仕事をこなし、泊り込みもした。6段重ねた麹蓋を運んだこともあるという。「さすがに重くて腕がプルプル震えましたが、絶対に音は上げないと決めていました」。そんな柏木さんの努力は蔵人にも通じた。今では、最初に柏木さんが憧れた蔵の雰囲気の中心に柏木さん本人がいる。「蔵の仲間や家族、周囲の皆のお陰でここまでくることができたと思っています」。

 「酒造りは人ではない 微生物が酒を造るんです」。柏木さんは、その微生物の動き、つまりはその時々の酒の状況を見極めることに力を注ぐという。「麹やもろみが今どんな様子なのか、どうしてほしいのかを見て理解し、より良い酒を造れる環境を作ることが私の仕事だと思っています」。わかっているつもりでも、ほんの少しの気温の変化で発酵の速度は変わる。「マニュアルだけではどうにもならない。やはり経験が大事です」。そんな柏木さんが杜氏として醸す酒は、「当たりがやわらかい」「ごつごつした部分がとれた」など、周囲の評判も上々だ。

 この春、「ワイングラスでおいしい日本酒アワード2015」で最高金賞を受賞した「純米大吟醸」は上品な中に米の旨みを感じさせる酒で、香りも楽しめる酒だ。また、「濃醇純米酒」は低温熟成でじっくりとつくり上げた純米酒だ。食中酒としてどんな料理にも合わせやすいという。「1日仕事をしてお酒を飲んだときに、ほっと笑顔になる。飲んでいるうちに心が幸せになっていく。そんなお酒を目指しています」と柏木さん。自分自身も生まれ育った会津の地で、その地元の米で酒を仕込めることを誇りに感じているという。「会津のよさをお酒の良さで伝えたい」。蔵は間もなく、仕込みの季節を迎える。

(左)純米大吟醸
(右)濃醇純米酒

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